本文へスキップ
ライブリッツ株式会社

PRESIDENT INTERVIEW

社長インタビュー

野球から5競技へ データ分析システムFastBallの14年【前編】

ライブリッツ代表取締役社長 村澤清彰に聞く、プロ野球5球団を支える仕組みが競技を越えた理由

プロ野球の現場は、すでに「経験と勘」の世界ではない。球の回転数、リリースの位置、スイングの軌道 ── 選手の動きは細かく数値化され、練習も戦略もそのデータの上で組み立てられている。

その仕組みを支えてきたのが、ライブリッツだ。プロ野球12球団のうち5球団に、チーム強化のためのデータ分析システム「FastBall」を提供している。2012年に初めてプロ野球団に導入されて以来14年間、数々のリーグ優勝や日本一の舞台裏を支えてきた。その仕組みはファンマーケティングシステム「FastBiz」にも受け継がれ、サッカー、ラグビー、ハンドボールなど多様な競技へと広がっている。

そして、選手のために集めたそのデータが、こんどはファンのほうへ向かおうとしている。データと生成AIで、スポーツを産業としてどこまで伸ばせるのか。代表取締役社長の村澤清彰に聞いた。

前編は、その土台になったデータ分析システムの14年と、仕組みが競技を越えて広がった理由から。

プロ野球5球団を支える「FastBall」

── 福岡ソフトバンクホークスをはじめ、プロ野球の球団にはどんな仕組みを提供しているのですか。

FastBallというデータ分析の仕組みを提供しています。トラッキングデータの分析や、選手のコンディション管理など、チームのあらゆるデータを一元管理する仕組みです。こうした仕組みは、12球団のうち5球団に入っています。しかもプロだけではなく、アマチュアにも提供しています。

── いつから提供しているのですか。

最初の球団に導入いただいたのが2012年です。当時は、データを見て戦略を決めるという考え方自体が、まだ当たり前ではありませんでした。そこから14年、ずっとスポーツのデータを扱ってきました。

── チームの成績にも影響しているのでしょうか。

それは球団の方々の力です。私たちがやっているのは、必要なデータを、必要なときに見られるようにすること。データを見て、戦略を考えて、遂行して勝つのは球団の力です。

「頭に入っているから、いらない」

── 2012年当時、球団側の反応はどうだったのですか。

最初のハードルは、スカウトの方々にシステムを使っていただくことでした。「なぜ登録しないといけないのか」「頭に入っているからいらない」と言われました。

それはそうなのです。ずっとご自身の頭の中でやってこられた仕事ですから。

── どう変わっていったのですか。

実際にデータを入れていくうちに、覚えなくていい、報告しなくていい、これは便利だ、と受け入れていただけました。入力という手間は確かに増えます。その手間に対して何が返ってくるのかを、粘り強くお伝えしていった感じです。

── システムそのものは、どう作ったのですか。

参考にできる既存の仕組みがあるわけではないので、ゼロから作りました。業務を伺って、業務フローを起こして、画面の流れまで作って、そこから機能を洗い出す。要件定義はしっかりやりました。

設計から先はアジャイルで、実際に動く画面を業務担当の方に見ていただきながら、項目を足したり、操作性を上げたりを繰り返す。一緒に作り上げたので、愛着を持って使っていただけたのだと思います。

── 14年間やってきて、いちばん手応えを感じたのはいつですか。

使っていただいている球団が、日本一になった瞬間ですね。

選手だけではありません。スタッフの方々が勝つために日々働いて、システムにデータやレポートを入れ続けている。その積み重ねが日本一というかたちで報われた。あれは感慨深かったです。

そこからさらにデータとシステムの活用が進んで、いまにつながっています。

届いていないほうが、ずっと多い

── いまのスポーツ産業に、どんな危機感を持っていますか。

プロの現場は、もう経験と勘の世界ではありません。データを分析して科学的なトレーニングをするのが当たり前になっています。でも、その環境があるのはプロの一部だけなのです。

アマチュアの現場には、そのデータがほとんど届いていない。この差が、日本のスポーツ界にとって一番の損失だと思っています。

── 「届いていない」と実感したのは、どんな場面でしたか。

回転数や回転軸といった言葉は、いまはYouTubeでいくらでも学べます。知識としては知っている選手が多いのです。

でも、自分がどんな値なのか、自分にどんな特徴があるのかは知らない選手が多い。まず自分自身の数字を知ることで、特徴も課題も見えてくるはずなのに、そこが抜けているのではないかと感じています。

── 競技をする人そのものが減っている、という話もあります。

入口が細っているのは、そのとおりだと思います。競技をする人が減って、教える人も足りない。そこにデータも届いていないので、上手くなる道筋が見えにくい。

そして産業として十分に稼げていないから、指導にも環境にも投資が戻らない。それがまた入口を細くしていく。別々の問題ではなく、ひとつの循環だと思っています。

── 届けるうえで、いちばんの壁は何ですか。

野球でいうと、お金より先に理解です。チームで機材を買ったりサービスを使ったりするには、指導者や保護者の理解が要ります。全員がデータの活用に前向きというわけではありませんし、そこまでしなくても、と考える方もいる。

プロは勝つことが当たり前ですが、アマチュアのチームは勝つことだけが目的ではありません。そこを一致させるのが難しい。

野球以外の競技だと、こんどはお金のほうが壁になります。費用対効果が、野球より見えにくいことが影響しています。

── どこから断ち切るのですか。

全部つながっているので、どこか一か所ということではありません。ただ、私たちにできるのはデータを届けることです。

やっているのは、ずっと同じことです。選手一人ひとりのデータを集めて、見えるようにする。競技が違っても、プロでもアマチュアでも、そこは変わりません。

仕組みは、競技を選ばなかった

── 野球以外の競技には、広げないのですか。

もう広げています。あわせて13のチーム・団体に使っていただいています。プロ野球で8球団、サッカーで3団体、それにラグビーとハンドボール。

プロ野球の8球団というのは、チームを強くするデータ分析システム「FastBall」と、チームとファンをつなぐファンマーケティングシステム「FastBiz」を合わせた数です。競技でいえば、野球とソフトボール、サッカー、ハンドボール、ラグビー。5つの競技に広がっています。

── 具体的には、どの球団やクラブですか。

公表しているのは、福岡ソフトバンクホークス、阪神タイガース、読売ジャイアンツ、中日ドラゴンズ、オリックス・バファローズ、浦和レッドダイヤモンズ、清水エスパルス、日本サッカー協会、ジークスター東京です。ほかにも導入いただいているチーム・スポーツ団体は多数ありますが、先方との約束でお名前を出せません。

── なぜ、競技をまたげたのでしょう。

野球で作った仕組みは、実は競技を選びませんでした。ハンドボールでは、チームを強くする仕組みとしてそのまま動いています。サッカーやラグビーでは、FastBallで培った仕組みが、チームとファンをつなぐ「FastBiz」へと形を変えて広がりました。どちらも、一人ひとりのデータを集めて、見えるようにするという点では同じだったのです。

── 何が同じなのですか。

競技が変われば、見るデータは変わります。野球ならスイングスピード、ハンドボールならスプリントスピード。でも軸はいつも同じでした。選手自身のパフォーマンス、相手の選手の傾向、そして味方の選手の組み合わせ。全部、選手のデータなのです。

── では、競技ごとに何を作り変えているのでしょう。

選手ごとに集めて、選手ごとに見る。その骨組みは変えていません。作り変えるのは、その競技で何を数えるかという部分だけです。だから新しい競技でも、ゼロからにはなりません。

── 実際に持ち込んだとき、そのまま動いたのですか。

システムとしては、そのまま動きました。コンディショニングやウェイトトレーニングなど、選手の体づくりに関わるところは、どの競技も共通しています。

── 逆に、難しかったのはどこですか。

野球に比べると、他の競技は選手個人のパフォーマンスを上げること自体が、課題として大きかったのです。相手を分析して戦法を見出しても、まずそのとおりに動けるかどうかが先にくる。

サッカーやハンドボールのようにフォーメーションを組む競技だと、味方とのコンビネーションが課題になります。ただ、これはデータで評価したり指導したりするのが難しい。

それに、個人のパフォーマンスを測る指標そのものが揃っていません。野球は投球なら球速や回転数、打撃ならスイングスピードや打球速度と、結果に直結する指標が多い。他の競技は、それが少ないのです。

── 競技側の反応で、意外だったことはありますか。

データそのものへの興味は、皆さん持っておられます。どんな指標があるのか、自分たちの数値はどうなっているのか。

ただ、その数値をどう使うか、どの指標をどこに置けばいいのかには、正解がない。そこに苦労されています。

後編に続く

選手のためのAI、ファンのためのAI スポーツから他産業へ【後編】

生成AIでスポーツ産業はまだまだひろがる

数値をどう使うか、どの指標をどこに置けばいいのか。その正解のない問いに、AIはどう答えるのか。後編では、選手のためのAIとファンのためのAI、そしてスポーツ産業のこれからを聞く。

後編を読む →

村澤 清彰(むらさわ・きよあき)

ライブリッツ株式会社 代表取締役社長。京都大学大学院工学研究科精密工学修了後、2001年フューチャーシステムコンサルティング株式会社(現フューチャー株式会社)に入社。2012年、プロ野球団向けチーム戦略・強化システム「Future FastBall」の開発を責任者としてゼロから立ち上げ、「経験と勘」の世界だったプロスポーツにデータ分析に基づく意思決定を持ち込む。2017年4月、ライブリッツ代表取締役に就任。2025年には生成AIでスポーツDXを促進する「FastBall AI」プロジェクトを始動した。